成年後見人制度は、意思決定能力が低下した人々の財産管理や生活支援を目的として導入されました。しかし、現在の日本の成年後見人制度には多くの問題点が指摘されており、国連からも厳しい勧告を受けています。本記事では、制度の背景と現状、そしてその問題点について詳しく解説します。
成年後見制度の背景
2016年に成立した「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(以下、利用促進法)は、成年後見制度の利用促進に関する基本理念や国の責務等を定めています。この法律には、成年被後見人等の自発的意思の尊重、財産管理のみならず身上保護も適切に行うことなどの基本理念が示されています。また、成年後見制度の運用改善や権利擁護支援の地域連携ネットワークづくりなどの取り組みが推進されてきました。
現状と課題
制度の運用改善が進められているにもかかわらず、成年後見制度の利用はそれほど進んでいません。2021年末時点で、成年後見制度の利用者数は約24万人にとどまり、主たる利用者として想定される認知症の方が約600万人いることを考慮すると、潜在的な制度利用者に対する適切な権利擁護支援が実施されていないことが懸念されます。
利用が広がらない要因の一つとして、制度が本人や親族等の利用者にとって使いづらいものである点が挙げられます。例えば、一度後見人を利用し始めると原則として利用を終了できないため、当初の課題が解決した後も制度の利用が継続してしまうことや、報酬付与が裁判事項であるために金銭的負担の予測が難しいことが指摘されています。
また、2000年の制度施行時には、本人の意思決定能力の尊重を重視する補助類型や任意後見制度の創設が目玉となっていたにもかかわらず、現在の利用者の74%が後見人の権限が最も強い後見類型を利用しており、保佐・補助類型の利用や任意後見の利用が少ないことも課題です。
国連からの勧告
2022年9月、国連は日本の成年後見制度に対して懸念や勧告を公表しました。特に、後見人の権限が強すぎることが問題視され、制度の見直しが求められています。この勧告は、2006年に国連で採択された「障害者の権利に関する条約」(障害者権利条約)に基づいています。この条約は、障害者の人権や基本的自由の享有を確保し、障害者の尊厳の尊重を促進するための措置を規定しています。
具体的な懸念点と勧告
国連からの懸念と勧告は以下の通りです:
- 懸念点
現行の民法が、障害者特に知的障害のある人の法的能力を制限し、代替の意思決定システムを永続させていることが、障害者の法的能力の平等を否定している。 - 勧告
- 代理意思決定制度を廃止し、すべての差別的な法的規定および政策を撤廃すること。
- すべての障害者が法の前に平等に認められる権利を保障するために民法を改正すること。
- すべての障害者の自律性、意志および選好を尊重する支援された意思決定のメカニズムを確立すること。
障害者権利条約と日本の対応
障害者権利条約は、日本が2014年に批准した国際条約であり、障害者が社会に参加し、包容されることを促進するための措置を定めています。2022年に実施された国連・障害者権利委員会の対日審査では、成年後見制度に関連する勧告が特に厳しい指摘を受けました。障害者権利条約第12条は、障害者は生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを規定しており、その趣旨に基づいて、後見人の権限が強すぎる現行制度の見直しが求められています。
まとめ
成年後見制度は、その目的に反して多くの問題点を抱えており、国際的にも厳しい批判を受けています。制度の見直しや改善が急務であり、国連からの勧告を真摯に受け止め、具体的な改革を進めることが必要です。私たちの団体は、この問題に対して積極的に取り組み、公正で透明な制度の実現を目指して活動しています。皆様のご支援とご協力を心よりお願い申し上げます。